吉田1年
吉田5年
吉田3年
この問題は、端的にいえば、「だますか、だまされるか」であるといえるでしょう。二人の連絡が取れて同時に社長に会うことができれば、タネ明かしして難を逃れられます。しかし、一人は出張中のため同時に社長に会うことができません。また、マジックを研究しあった二人は、心情として努力の結晶ともいうべきマジックを、脅しに屈して社長に明かすわけにはいかないでしょう。
メールで連絡が取れて友情を大切に二人とも「明かさない」を選ぼうと申し合わせたとします。しかし、状況は少しも変わりません。なぜなら、社長に対して二人が同時に電話連絡ができないことと、もし片方が裏切ったら一方は5年間ボーナスはもらえない状況に一向に変わりがないからです。
自分が裏切れば、他の社員と同様にボーナスがもらえる・・・という“裏切りの誘惑”も強くあります。この誘惑は友人にとっても同じです。そのため、次第に心の中に広がる友人に対する不安、信頼への揺らぎ・・・。まさに、ジレンマです。
ある王権統治の国で二人のギャンブラーがいかさま賭博、つまりは詐欺罪で逮捕されました。この国の刑法は厳しく形式的な裁判はあるものの詐欺罪だけで懲役3年は確実です。裁判官、そしてこの国唯一の刑務所所長もかねる国王は、いまだかつて恩赦を発令したことはありません。黙秘権だけはあるようです。
物証は固まっているものの、あくまでも自白をとりたい王様は権力のもと、一人の容疑者だけをプライベートルームに呼びつけました。
「緊張しなくともよい、この部屋には私と君しかいない、だからリラックスして私の話をよく聞きなさい。それにしても我が国の警備システムを甘く見たものだな、君たちがいかさまを働いていたカジノにはビデオカメラが設置してある。それもメガピクセルのCCDだ。毛先まできれいに写るのだよ。もちろん死角がないように床にもセットしてある。ピーナッツをオーディナリーパームしても、サムチップの色の違いだってはっきり写るのだよ。プリントアウトしてみようか?そして画像データはすべて、このサーバーに集まってくる。見たまへ!」
王様がキーボードをたたくと、書棚が割れてそこから巨大冷凍室を思わせるサーバールームが現れた。ガラス越しではあるが、実際に室温が下がったような気がする。
「一台16テラのハードレイドシステムはレベル5で稼働しているが、検索は早いよ。16テラから君のアップを表示するのに必要な時間は、このハンバーガーを電子レンジで温めるのと同じだ。内部クロック周波数が電子レンジ並みなのだよ、生卵を持って、あの部屋には入れない。すばらしいだろう」
何がすばらしいんだ!この王様はハードおたくか!
「さて、本題に入ろう君たち二人が詐欺罪を犯しているのは、このシステムで明白だ。良いね。しかし君たちは黙秘している。そこでだ、君が全てを自白してくれたら君だけは刑期を1年に減らそうじゃないか、このまま二人とも黙秘していたら3年だ。長いよ。」
いかさま師の結束は堅い。覆面マジシャンのように簡単には仲間を出し抜くことなどできない。そんなことはこの王様は承知の上のようだった。そして言葉を付け加えた。
「この事は、相棒にも言ってあるのだ。分かるかな?、一人だけが自白したら一人だけが懲役1年に減るわけだ。一人だけ刑を減らすのは不公平だね。自白しない容疑者は相当悪質だ、そういう悪質な犯人には詐欺罪でも懲役5年は下すことができるだろう。どちらかが自白してからの自白はおもしろくないね、そのときには二人とも4年の懲役刑が妥当だろう。裁判官は私だ。法廷が楽しみだね。」
ずいぶんと乱暴な王様だが、全世界を見るとまだ甘いのかもしれない。もっと不公平がまかり通っている。ちなみにこの容疑者は成人であり未成年法は適用されない。
B=5年
B=1年
B=3年
それではAが自分だったとしましょう。Bに自白されたら懲役5年、あわてて自白しても懲役4年。
Bが自白しなかったらこのまま黙秘しても3年、自白してしまえば1年ですむ。同じことをBも考えているだろうから自白してしてしまう方が得なように思えますが、二人とも自白しても不条理な4年です。二人で黙秘すれば3年ですみます・・・困った。
二人のギャンブラーは得意のゲームとして考え始めた。
まずはこの原案の法廷劇から考えてみましょう。この劇にタイトルを付けるとしたら「だますか、だまされるか」。
ギャンブラーはゲーム理論上で必勝法を見つけるために頭をフル回転させて考えたことでしょう。しかし、すでに実験をおこなっている人たちが居ました。ラパポートとチャマーです。彼らの実験によると結果は次のようになりま
す。
解析は大きく2つの場合に分けて行われました。
1つはこのゲームが1回限りの場合。
結論は「だます」でした。この場合ですと自白になります。
もう1つはこのゲームが終わり無く繰り返される場合です。
結論は「自分からはだまさず、だまされた時だけだまし返す」でした。すでに2回目のゲームから「だまされる」方が有利になり回を重ねるとさらに顕著になります。おもしろい問題だったでしょ。詳しいことを知りたい方はご面倒でもご自分で調べてみてください。専門的ですが、とてもすばらしい本があります。(左写真)ホームページは計量社会科学ワークショップ。
さて、本の問題に照らし合わせてみましょう。
吉田1年
吉田5年
吉田3年
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A
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自白
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B=1年 |
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黙秘
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B=5年 |
B=3年 |
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赤い字の部分を照らし合わせてください。
ここだけが違います。お気づきのように、ここで大きく違ってきます。
この状況で解析すると1回目のゲームから黙秘が有利になります。
もうお分かりですね。それでは解答です。
解答:同時に種明かしを出来なければ、明かさない方が有利です。
本の問題で一人が種明かしをした後、ほんの少しの時間差でもう一人が種明かしをしたとしましょう。この場合はどうなるのでしょうか?、原案では明確になっていますが、この問題では同時は無理でかたづけています。実生活ではこれが大きな問題なのです。この社長のような人の場合、タネだけが知りたい場合が多いので、タネを一度知ってしまったら、一気に興味が無くなってしまいます。そんな時にもう一度タネ明かしをされてもどんな反応をワンマン社長がとるのかまったく想像もできません。
実はこういう問題を考えること、つまり定石、定説の一部に手品師にとって有利な(あいまいな)事柄をこじつけることによって現代マジックが創造されることが多くなりました。古典になりましたが、現在でも多く使われている「手品師の選択」もそうです。赤と白のワインがあるとします。手品師は赤のワインだけに仕掛けを施してあります。この場合手品師はこういいます。
「赤と白のワインどちらでも、お好きな方を選んでください」
赤が選ばれた場合「赤ですね。どうぞお取りください、ではこの赤ワインで次のマジックをお見せしましょう。白ワインは後でゆっくりおのみください」
白が選ばれた場合「白がお好きなのですね。このワインは差し上げます。後でゆっくりおのみください。では、赤のワインで次のマジックをお見せしましょう」
これで相手は好きな方を選んだと思います。そして、白のワインを飲んでもらうことによって、何も仕掛けがないことが強調できます。
矛盾?:種明かしがマジシャンの不利になるのに、「この本は種明かしの本じゃないか。」というご意見があるかとも思います。
私の考え方ですが、マジックのタネは製品を作り上げている部品のように思っています。タネ部品です。優秀なタネ部品で構成演出された優れた製品が芸術的なマジックです。そのタネ部品は特殊な物でない限り興味のある人に適切な価格で広く利用されるべきです。そこで新に構成演出されたすばらしいマジックが生まれるかもしれません。この本を買っていただいた方、載っているのは私の師匠ダーク大和から弟子時代に譲り受けた優秀な部品ばかりです。どうぞ皆様もすばらしいマジックを創作してください。
ところで、数学的な判断でなく、もし私がワンマン社長の社員だったらサムチップぐらい見せてしまうでしょう。それでワンマン社長が納得したら勿怪の幸い。そして、次にサムチップを使ったまったく違う演出のマジックを見せても、また同じように驚きます。時を重ねて、社長がそれをどう使ったらあの演技が出来るんだと気が付いて、また無理難題を押しつけてきたら、きっと給料ももらわず退社してしまうかもしれません。マジックの演出こそが、一番大切なものだからです。会社を辞めた後ですか?手品師になります。
2000年現在、(社)日本奇術協会に所属している実演家奇術師は全国で96人しかいません。(:_;)


読者の皆さんへの挑戦解答